2024/02/01

『旅する台湾 屏東』序文「喪失を乗り越えて」

 『旅する台湾 屏東』に寄せた序文「喪失を乗り越えて」が、ウェブマガジン「ほんのひととき」に公開されました。屏東の文化の担い手たちの写真も掲載されています。

パズルのピースを集める旅|大洞敦史(ほんのひととき)

*********
「屏東は世界有数の多民族社会だが、どのエスニック・グループも多かれ少なかれ、住み慣れた土地や、親しんできた生活様式、伝統文化、言語、信仰、自然、生物などの喪失を経験してきた。そのうえ、今日でも多くが存続の危機に瀕している。山の章で書いた2009年8月の八八水害は近年最大の天災で、今も川原を覆い尽くす灰色の土砂は、その天変地異のすさまじさをありありと物語っている。10年前に見かけた新築住宅群は、これにより住処を失った人々のために建設されたものだった。
(中略)
 こうした痛ましい喪失を幾度となく経験しながらも、屏東は「復活」への力強い歩みを続けている。天災の爪痕が残る土地にとどまる人々も、別天地に移り住んだ人々も、それぞれの場所で懸命に生きている。
 それにまた、自然環境、伝統文化、歴史、思想などの、失われかけているものや忘れ去られようとしているものたちに、再び形と力を与え、その尊さを広く知らしめようとする動きが、各地で非常に活発になっている」